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カーボントレーディングが世界的にブームになっている-カーボントレーディングとは何か、どのような仕組みか?

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カーボントレーディングは、1990年代に京都議定書で、世界各国が炭素の削減を公約したことを契機に、飛躍的に発展した。世界銀行が2022年に発表した「Carbon Pricing Dashboard」に記録されている現行の34のスキームに加え、世界各国の政府が公式に検討している19の排出権取引スキーム(ETS)がある。ボランタリーマーケットは2030年までに100~400億米ドルの規模に達する可能性がある。

このような広範な発展は、カーボントレーディングが温室効果ガス(GHG)の排出量削減において費用対効果の高い役割を果たしていると国際的に評価されていることを示す。

この記事では、規制された(regulated)マーケット、ボランタリーマーケット、キャップ&トレード、ベースライン&クレジット制度、排出枠、入札等、複雑な分野を取り上げ、簡潔に解説する。

この記事はCarbon Markets Seriesの第1回目となります。その他の情報については、Climate & ESGインサイトへご登録ください[リンク]。

1990年代から今日まで:排出削減戦略はどのように始まったのか?

カーボントレーディングは、地球温暖化の原因となるGHG、特に二酸化炭素(CO2)の削減を目的とした(いくつかの形態の)クレジットの取引を伴うマーケットベースの制度である。[1]

最終的な目標は、最も費用対効果の高い国又は事業体で排出を削減することによって、避けることが出来ないカーボンの排出を相殺(オフセット)することにある。

カーボントレーディングは、複数のGHGを削減するという画期的な公約を掲げた京都議定書が調印された1990年代後半に開始した。

京都議定書の重要な要素は、カーボントレーディングのための柔軟なマーケットメカニズムであるクリーン開発メカニズム(CDM)の確立であった[2]。CDMの下、先進工業国経済が発展途上の国々において排出削減プロジェクトを実施することができる。これらのプロジェクトは、販売可能な認証排出削減量(CER)クレジットを生み出すことができる。先進国は、京都議定書の排出削減目標の一部を達成するために、これらのCERを利用できる。2022年6月現在、世界全体で7845件のプロジェクト活動がCDMに登録されている。[3]

2015年のパリ協定を含め、様々な国際条約及び協定が、カーボントレーディングを精練し、適応させてきた。特にパリ協定の第6条には、カーボントレーディングの「ルールブック」が組み込まれていた。しかし、その詳細及びメカニズムについては交渉中であった。

決定的な突破口が見出されたのは、2021年グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP26)である。長年の膠着状態を経て、COP26では、第6条の「ルールブック」に関する以下のような重要な進展をもたらした:

  • カーボンアカウンティング(炭素会計)を規制する新たなルールの設定
  • 各国がカーボン削減量を移転させるためのメカニズムの構築
  • 国連の機関によって管理される世界的なカーボンマーケットの確立

締約国によって採択された新しいUNFCCCメカニズムにより、官民双方の主体による国際的なカーボントレーディングが可能となっている。

その発展は、地球温暖化に関する公約及び2030年には153カ国により採択された「国が決定する貢献」(NDCs)に基づく排出目標を強化し、グラスゴー気候合意の一部を形成した。

2022年11月、エジプトは、計画から実施への移行に焦点を当てた第27回国連気候変動枠組条約締結国会議(COP27)を主催した。それに合わせて、アフリカ地域のグリーン開発を促進するためのアフリカカーボンマーケットイニシアチブが発足した。

Article 12, Kyoto Protocol to the United Nations Framework Convention on Climate Change (1998).

地球温暖化を1.5~2℃抑えるには、2030年までに排出量を25~50%削減する必要がある。

専門家は、10年後までに世界のカーボン価格が1トン当たり約75米ドルにならなければ、上述のレベルまで地球温暖化を防止することは極めて難しいと予測している。[7]規制されたマーケットに課される厳しい上限(キャップ)は、厳しい環境規制と相まって、カーボン価格の上昇及び化石燃料に変わるグリーン燃料の促進において鍵となる。

どのように規制された又はコンプライアンスマーケットは機能しているか?

規制された、又はコンプライアンスマーケットは、強制的に国家、地方、又は国際的に創設され、規制されたカーボン削減制度で、現在、企業及び産業排出者を対象とするカーボン削減量を確保するために用いられている主要な方法である。規制されたマーケットは2つのカテゴリーに分けることができる:

  1. キャップ&トレードスキームは、最も一般的な制度であり、一定の基準に従って入札又は分配を通じ、マーケットに放出される一連の許可により排出量に一定の上限を設けることで機能する。
  2. ベースライン&クレジット制度は、排出量に一定の上限を設けておらず、削減が義務付けられている排出量を超えて削減することができた企業に付与されるオフセットを取引するものである。この制度において、取引される品目は、キャップ&トレードスキームにみられるような将来の汚染とは異なり、過去の排出量削減のためのものである。

コンプライアンスマーケットは、GHG排出量の算定が法律で義務付けられている企業及び政府に高い水準で利用されている。規制されたマーケットは、国家及び国際機関によって監督されている。

キャップ&トレードスキームには、以下の特徴が含まれる。

  • マーケット参加者は、通常、セクター、カーボン排出度合、規模に基づいて政府によって特定される。
  • 各国政府は、マーケット参加者に排出枠(上限)を設定し、その上限に見合った排出枠を無償で分配又は入札により発行する。
  • 入札制度は、企業に排出枠の購入を要求し、ひいては、企業が排出量を削減するインセンティブをさらに高めるものであるために、好ましいアプローチである。
  • 今後、GHG排出量を減らせるよう上限は引き下げられていく。各遵守期間の終了時に重い罰則を科されないためにも、企業は排出するGHG1トンごとに排出枠を放棄しなければならない。
  • 排出量を削減した企業は、将来の排出量をカバーするために予備の排出枠を保持するか、あるいは、排出量の上限を超えた企業に予備の排出枠を売却することができる。排出事業者は自らに代わり排出量を削減する者に事実上金銭を支払っているため、予備の排出枠を購入することで排出枠を超過することが許容される。

規制されたマーケットの具体例は、以下のとおりである。

  • 世界初のETSは、2005年初頭に導入された欧州連合(EU)のETSである。EU ETSはキャップ&トレードスキームを採用している。
  • イギリスを含む国家レベルのETSやカリフォルニア州の都市レベルのETS等がある。
  • 世界最大のETSは、2001年に導入された中国の国家レベルでのETSである。

どのようにボランタリーマーケットは機能するのか?

ボランタリーマーケットは、規制されたマーケットの外で機能し、企業、政府機関、個人が、コンプライアンス目的の意図、またはその可能性のある使用をせずとも、自主的にカーボンオフセットを購入することを可能にする。パーミット又はクレジットは、内部のCSR、広報活動又は企業の取組みを実現するために、ボランタリースキームのもとで購入されることが多い。

自らの排出量(サプライチェーンに関連した排出量、自社製品の使用により発生する排出量)を削減することを確約する企業が増えている。

自主的に購入されたカーボンクレジットは、自らが削減できなかった排出量を補うことができ、その結果として、世界のネットゼロへの移行に貢献することになる。

最近、カーボンクレジットの認証が、クローズアップされるようになり、これらのボランタリーマーケットの成功は、カーボンクレジットの認証の正確性及び完全性により左右される。

特徴としては以下のとおりである。

  • ボランタリーマーケットは、エネルギー生産等の高排出産業を扱うコンプライアンスマーケットよりも、幅広いセクターを取り扱っている。
  • 大気中からGHG排出量を除去するプロジェクトに融資するプライベートセクターにインセンティブを与える包括的な目的が含まれる。
  • 取り締まりは、非政府組織(NGO)に委託されることが多く、これらのNGOは、排出量削減プロジェクトを認証する独自のメソッドを考案した。
  • ボランタリーマーケットは規制されたマーケットから独立しているため、排出量の上限を下回る企業は、自らの法的義務を果たすために自主的にカーボンクレジットを購入することができない。

ボランタリーカーボンクレジットを生み出すプロジェクトは、一般的に以下のように分類される。

  • 回避・削減プロジェクト:このプロジェクトは現在の排出源から排出量を削減する。その具体例として、再生可能エネルギーなどの低炭素化技術の導入、森林伐採などの排出の原因となる行為の回避、メタンをはじめ、他のGHGを大気中に排出せず、それらを吸収する産業プロセスにアップグレードすることなどが挙げられる。
  • 除去・分離プロジェクト:これは、大気中のカーボンを取り出し、使用又は貯蔵するものである。除去・分離プロジェクトは、自然に基づくものと技術に基づくものがある。自然に基づくプロジェクトは、大気中の二酸化炭素を分離する生態圏の能力を利用したもので、森林再生及び生態系回復の取組みも含むものである。技術に基づくプロジェクトでは、収集した二酸化炭素を使用するか、二酸化炭素を地圏に貯蔵するという現代技術の助けを借りて、大気中の二酸化炭素を除去する。

ボランタリーマーケットの具体例は、以下のとおりである。

カーボントレーディング契約及び標準化への成長傾向

カーボントレーディングへの関心が高まるにつれて、取引契約及びそのスタンダードな雛形の契約書に焦点が当てられるようになった。

規制されたキャップ&トレードマーケットでは、入札は排出枠の発行に用いられるデフォルトの取引プラットフォームである。その後、企業がこれらの排出枠を取引する。

政府も、固定価格を保証し、価格変動を最小限に抑える[8]ために、カーボンの差額決済契約を導入している。これは、政府又は機関がエージェントと一定期間の固定炭素価格について合意することで、リスクを最小化する有効な方法である。

  • 契約期間中、エージェントはその価格でカーボン排出削減量を販売することができる。
    • 固定価格より低い場合、エージェントはその差額を受け取る。
    • 固定価格より高い場合、エージェントは政府に追加収益を返金する。[9]

このようなカーボン契約は、より確実な収入源を提供し、カーボン価格変動の影響を緩和できるためエージェントを後押しするものといえる。

結果として、様々な業界団体が、カーボンクレジット取引のためのマーケットスタンダード又は雛形の契約書の作成を開始した。例えば、以下のようなものである。

  • オーストラリア金融市場協会(AFMA)は、企業が第三者からカーボンクレジットの売買する際に使用する契約書の雛形を発表した。
  • 国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)は、2022年12月13日に2022年ISDA認証カーボンクレジット取引定義集を公表した。これは、環境、社会及びガバナンス活動に関連する市場のための強固な法的及びリスク管理基準を策定することにより、グリーン経済への移行を支援する広範な取組みの一環である。ISDAの標準的な定義集は、ボランタリーカーボンクレジットのためのデリバティブ取引を円滑にするため、ISDAマスター契約の別紙に含まれる追加の雛形単語を考案した。[10]

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